チェコの大新聞Mladá Fronta Dnesご乱心?日系企業へのクリシェな批判記事

チェコで最も売れてる新聞のひとつ


こないだ心ある読者様より、「ブログ見てますけど…いまだに桜の写真って…」と面と向かって更新のサボりっぷりを指摘され少々反省。その後撮るだけは撮っている花々の写真も季節遅れになり、今プラハを歩いていて一番いい香りなのはきっとこれ。

白粉(おしろい)花に似た甘い香りのジャスミンが真っ盛り。

さて久々の更新、反省の意味もこめてアクチュアルな話題をひとつ。既にチェコ国内の日系企業の皆さんはご承知の話だと思いますが、昨日6月16日付のチェコの新聞、ムラダー・フロンタ・ドネスの1面および経済面トップとその次のページ、つまり3ページにわたって特集された日本企業についての記事の話。

まず1面の下段に載っていた記事の日本語訳(僭越ながら私の訳なので誤訳箇所もあるかとお断りしておきます)から。

「日本人上司ら失望、チェコ人が体操しない!」

日本人上司たちがお手本を見せる。日本で幼稚園の頃から慣れたやつを。最初は気が進まなかったチェコ人社員たちも、上司のお手本を見習ってピアノの音楽に合わせて腕を上げる。しかしチェコ人たちにやる気が感じられないのは火を見るより明らか。こんな光景が最近までとある日本の会社のチェコ支店で実在していたのだ。
“最初はチェコ人たちもユーモアとしてこれを受けとめていました。でも時がたつにつれ、そうはいかなくなったのです”。当時この会社で働いていたチェコ人の女性社員は、当時社内で毎日行われていた朝の体操についてこう語った。
“日本人は世界中に自分たちの会社文化を持ち込むことにご執心です。伝統に対して強い誇りを持っているのです”。こう語るのは、経済大学(Vysoká škola ekonomická)企業文化の専門家、Ivan Nový氏。“日本人にとって会社が最優先事項なんです”。
日本人ビジネスマンにとって一番の泣き所は、環境の違いからくるカルチャー・ギャップである。多くの場合、失望やフラストレーションが溜まった状態で終わる。社歌やら社内掲示板に貼った目標やら朝の体操やらをもってしても、チェコ人に愛社精神というものを教えられない、いや、むしろ逆効果なことを悟るのは日本人にとってつらいことである。
日本では、こういった儀式めいたものが社員と会社を結びつける忠誠心を育てると考えられたかもしれないが、チェコ人にとってはコミュニズム時代の全体主義的な規律をまず思い起こさせるものなのだ。長い間チェコ人たちを締め付けていたもの。チェコにある日系企業で行われていたこうした儀式はまさに、そのイメージで受けとめられたのである。

“その朝の体操は、何ヶ月か続いた後チェコ人たちの大反対にあい、結局やめざるを得ませんでした”。“この他、日本人ビジネスマンたちがチェコに来て驚くのは、チェコ人たちがひとつの会社に生涯勤めるわけじゃないということ”。先のチェコ人女性はこうも語る。日本人にとって会社を離れるということはつまり、その会社に対する裏切り行為に等しいからだ。


…とまぁ、こんな調子で、とある日系の製造会社に以前勤めていたチェコ人女性へのインタヴューを中心に、企業文化の専門家なる人たちの意見を交えて記事は進んでいきます。朝の体操のほかに社員全員が着なければいけない制服、細々した仕事の指示図や統計だとかが貼られた社内掲示板、残業、そう高くもない給料、年功序列、女性の限定的な地位、言葉の問題からくる意思の疎通の問題と仕事における慣習の違い、といったことが次々語られていきます。

掲載文を一応全部読んでみた感想としては、いちいち全部翻訳するほどの内容でもない、ということ。“日本人は生産的と言われてるけどホントのとこどうなの?”とか“カルチャーギャップから来る衝突にはどんなことがあった?”とか、なんだか煽るような質問が多いうえに、使われている写真は違う目的で撮られたもののようだし(つまりちょっとヤラセが入ってる)。名指しでいくつか具体的な会社名をあげていたり、そもそもこの新聞が日本でいえば朝日や読売のような、チェコで部数の多いポピュラーな新聞の1面で取り上げられたのが問題といえば問題。だってあまり日本と接点のないチェコ人が読んだら、なんだか不気味なアジア的儀式をチェコ人に押し付ける不可解な企業文化を持つ日本の会社、っていうイメージだもの。

ご丁寧にも各国の企業文化の特徴なる比較記事もあったりするのですが、これがまたなんとも…どっかでさんざん聞いたような典型的レッテルがいっぱい。例えば、アメリカの会社は自由と個性、クリエイティヴィティを重んじ、会議はビジネスライクでアジアの会社に比べるとはるかに効率的、上司はオープンで社外で非公式の交流も盛ん、不確実性を恐れずリスクも取る、とベタ褒め。かたやドイツ企業については、肩書きや地位、学歴が重要視され、上下がきっちり分かれてて階層的、閉鎖的、何でも前もって綿密に準備され、サプライズが嫌い、となんだかジメジメしたイメージ(笑)。日本と韓国については、団体行動や年功序列を強いられ会社が一番家族は二の次のアジアな会社、と乱暴なまでに一緒くたにされ、取材不足は否めません。

そのインタヴューに応じたチェコ人女性にしても、その会社のよかったところ、ポジティヴなことだって語っているし、彼女の話自体は経験からくる具体的な話なのでわりと面白いのですが、それを題材にしてセンセーショナルなカルチャー・ギャップの方向へと煽っている意図的なものを感じてしまいます。

この件で同僚のチェコ人たちと話してみると、似たりよったりの感想。気にする必要ないんじゃない、と。でも「大体のチェコ人は信じちゃうかもね」とのこと。反対に「日本の技術と会社文化はとにかく素晴らしい!とやたらと褒めちぎる記事もよく見かけるから、それを信じてこんなハズじゃなかったってなるよりはいいんじゃない?」という、なるほどな意見も。

ちなみに日本生活が長かったウチの旦那も、この記事については笑い話で済ませてました。「朝の朝礼をよく見かけたけど、毎日何をそんなに話すことがあるのか不思議だった。でも体操に関しては、例えば工場でいつも同じラインに立ち同じ筋肉しか動かさないから、労働者の健康や危険防止の意味があると聞いたことがある」と。会社への忠誠心、一体感を作り出すためだけに朝の体操をしていたとは思えないのですが、チェコ人にはどのように説明されていたのでしょう。。。ちなみに合気道をやってる同僚も、やはり練習の前に軽い体操をするのが習慣だから、この新聞の論調のように、なんだか宗教めいたアジアの不気味習慣とは受けとっておらず。

単なる説明不足、コミュニケーション不足なだけの話かもしれません。日本企業なんだから当然チェコの会社とは違うことをわかってて入ってくるだろうし、ちゃんと理由があればチェコ人だって分かってくれると思うのです。
記事には、工場のラインのあまりにきっちりした取り決め、全てのものが正確にあるべき位置、動きの過程に至るまで決められ、時間も窮屈、みたいなネガティヴな書き方が散見されましたが、メイド・イン・ジャパンのブランドはそのおかげもあるでしょ、と論理立てて説明すればほとんどの誤解は解決されるはず。改善するところがあれば、いい会社ほど聞く耳を持っていると思うし。理想は双方のいいとこどり、歩み寄りだと思うのだけど、それは理想論なのかしら。。。