“小さな巨人”フィリップ・トポル

ワゴンのプログラム

プラハの人口は100万人強、偶然ばったり人に会うことが日本のドラマの中以上に実際に起こる小さな街。それなのによくどこもつぶれないな〜と感心するほどあちこちに劇場、ライヴハウス、映画館、クラブなどがあり、夜遊びには困りません。
旅行者がかなり含まれているにしても、プラハの人たちはホスポダ(居酒屋)も含めたら、夜な夜などこかしらに出歩いているんじゃないかと思うほど。始まりが演目にもよりますが20時〜21時ぐらいから、というのが多いので、会社終わって(※残業はまずしないひとたちです)いったん家に帰って休んで、とかホスポダで待ち合わせして一杯やってから、と余裕。
先週の金曜日、我々も国民劇場そばのワゴン(vagon)というクラブへ。チェコのオリジナルロックバンドの他、いわゆる“クラシックロック”と呼ばれるようなバンドのリヴァイヴァル特集を定期的にやってるような箱です。

バーカウンターの周りや天井にはアナログ盤が空の星のごとく飾られています。
今日のお目当ては、この人、フィリップ・トポル(Filip TOPOL)というロック・ピアニスト。

いや、パンク・ピアニストといったほうがいいのかも。小さくてやせている彼からは想像しにくい激しいバッキングに合わせて暗い歌詞(→旦那より)をつぶやくように、あるいは叫ぶように歌います。
1965年プラハ生まれの彼は、プロデビューが13歳のとき、あの伝説のバンド、ザ・プラスティック・ピープル・オブ・ザ・ユニヴァース(The Plastic People of the Universe)のライヴという早熟(?)ピアニスト。お祖父さんは作家、お兄さんは詩人、自身も小学生時代の同級生と組んでいるバンドPsí vojáci(プスィー・ヴォヤーツィ)でやっぱり歌詞を書いています。

旦那(例によって全部持ってる!)からCDを借りて聴いていたけれど、ライヴに行こうと思ったのは少し前に偶然、とあるホスポダで彼が一人飲んでるのに遭遇したから。そもそも顔と音楽が結びつかなかった私に、「ほら、フィリップ・トポルがそこにいるよ」と教えた旦那。静かにビールをやりながら本を読んでいたから、15分ぐらい悩んだけれど思い切ってサインを頼みました。チェコ語の教科書の裏表紙に(笑)。

「時々あなたのCD聞いています」とたどたどしいチェコ語で言うと、「え、ほんと?」と驚く彼。そりゃそうだろうな〜。でも「誰宛に書いたらいいの?」とやさしく名前を聞いてくれて、丁寧にサインを書いてくれました。いい人だ…。
この日のライヴはもちろん一番前で堪能しました。若い人にも人気のようで、ビール片手に真剣に彼を見守る男の子(今度はピアノ小僧だろうか…)多し。

歌詞は結局まだよくわからないのだけど、ピアノは独特。ベースとドラムがよく合わせられるな(長年の友達ならではなんでしょうが)、と感心するマイペースさ。ちゃんと先生や学校とかで習ってないと思われる指運び、音選びなんだけど、技術のレヴェル以上に言いたいことがあるんだな、と伝わってくる激しいピアノ。
バンド名Psí vojáciは英語で言うと“dog soldiers”、でも由来はアーサー・ペン監督、ダスティン・ホフマン主演の映画『小さな巨人』(『Little Big Man』1970)に出てくるインディオの種族の名前だそう。http://www.psivojaci.cz
確かに小さい彼だけど、サインを書いてくれたときにもそこはかとなく漂っていた凛とした存在感で圧倒する印象的なピアニストなのです。