窓の灯り分ある暮らし

アドヴェントの灯り


「きっとあなたはプラハのこと好きになると思う」と、まだ私がこの地へ足を踏み入れたことがなかった頃に旦那がおずおずと、でも確信めいてこう言っていたのを覚えています。

こちらに本格的に移り住んでからそろそろ1年半になろうとしている今、最初の頃に感じた奇妙な感じ、旅行に出たまま、帰っていないような感覚はいつのまにか過ぎて、仕事や学校に遅刻しないようにトラムに飛び乗ったり、いかに近道するかで頭が一杯だったり、クリーニング屋→郵便局→八百屋→スーパーの順で廻ろうと考えながら歩いていたり…と、ここがすっかり日常の暮らしの場所になってきました。
日本じゃ考えられないってことが日々起こり、チェコのせいじゃないんだけどつらかったこともあり、いろいろあったけれど(まぁ1年半ぐらいじゃ大げさかな)、やっぱりプラハを今のところまだ好きなのは変わらないし、寒いのはキライだけど、特に夜のプラハは冬の厳しさのせいかいっそう美しく、何の因果でこうしているのか恨めしく思いつつ(笑)も、しみじみとこの美しさに浸ることの多いアドヴェントの時期。

夏に日本から遊びにきた元同僚たちが、ウチの窓から外を見て、「魔女の宅急便みたいだ…」と言っていたけれど、初めて私がこのアパートに来た時から今も、ずっと飽きないのが、ウチの窓から中庭をのぞむ、特に夜の眺め。

…といっても別に向かいのアパートを覗こうってんじゃありません。まぁ正確にいえば、“眺めて”はいるんですけれど、それなりに離れているので、人がいたりするのはなんとなくわかるものの、映画『裏窓』のように、何をしてるかまでは見えない微妙な距離なのです。それでも外から見えないカーテンをしてるとこは少なく、灯りがついているとなんとなく人の動きはわかる、という具合。

つらい時は、窓から向かいを眺めて、「あそこの家も向こうの家も楽しそうだな…」とさらに自虐的に考えてしまったり(→何をやってるんだ…笑)、「あそこはいつも遅くまで電気ついてるけど、何の仕事してるのかしら」とか、それぞれの灯りから勝手にそこん家の暮らしを想像するとちょっと楽しい。ちょうど、サン・テクジュペリの『夜間飛行』のパイロットの気持ちのような。

プラハ3区はジシコフ(Žižkov)にあるテレビ塔(Vyhlídková/Televizní věž)に登って上からプラハの街を眺めてみると、中庭を“ロ”の字型に囲んだアパート同士の距離感がよくわかります。通りを歩いていると建物は隙間なく建てられているのですが、中庭はわりと余裕があることが多いのです。
高さ216mもあり、ペトシーンの丘やプラハ城からも見えるテレビ塔は、共産主義時代の悪しきデザインでプラハの景観を台無しにしている、という向きも多いのですが、よく見れば奇妙で楽しい現代建築の塔。上にはカフェもあって、夜景好きには面白いスポットのひとつ。http://www.tower.cz


ろうそくの炎が3つあるワケは、ひとつは一番手前の本物、ふたつ目は最初のガラス窓、みっつ目は2枚目のガラス窓に映っているから、です。そう、大体窓はこうして二重になっているんです。そして冬の間は、この窓と窓の間が自然冷蔵庫と化します。だからごはんの残り物なんかの定位置はココ。

いつか向こう側のアパートから、こっちの灯りがどんなふうに映ってるのか、見ることができたら面白いだろうな。あ、その前に窓拭きね。こちらの大掃除は、大晦日ならぬ、クリスマス前=アドヴェントの時にやっつけとくべきシロモノ。あ〜あ、メンドくさい。。。