プラハのカフェ黄金時代

プラハがコーヒーの香で包まれていた頃


皆さま、ご無沙汰しております。雨だったり雹が降ったり、朝は春の気配だったのが、夕方は真冬の寒さに逆戻り、とか、そんな予想のつかない日々。今年かなり早いイースターを迎えるプラハでは、今月一杯イースターマーケットが主な広場でオープンしています。

春の訪れを告げる愛らしい黄色の連翹、チェコ語で“黄金の雨”という意味を持つzlatý déšt'が満開。
さて発端はといえば、少し前にこんな興味深い本が出たのです。

ホスポダはもちろん、カフェにも目がない私。学校の帰り道、旧市街の本屋の軒先で見かけ即ゲット。イラストや写真満載の、19世紀末から20世紀前半にかけてのプラハのカフェの黄金時代がたっぷり詰まった本。

ウキウキして読んでいたら、さらにこれ。

今週12日の水曜日からプラハ市博物館で「プラハのカフェとその世界〜丸テーブルとカフェの香りに包まれた20世紀前半のベル・エポック〜」と題した展示会が、この本の出版にあわせて始まりました。プラハの老舗カフェのひとつ、ルーヴル(Louvre)が当時のカフェも博物館内に再現するとあっては、行かなくちゃ。

というわけで宿題も放っぽって、地下鉄B線(黄色)はフロレンツ下車、バスターミナルからも程近い、わりと地味めなこの博物館へ。

レトロな壁掛け黒電話の後ろには、当時の電話帳の“kavárna"(カヴァールナ、チェコ語でカフェのこと)欄が壁紙代わりに。

ボタンを押すと主だったプラハのカヴァールナの場所がマップに点灯され、さらにここの電話でお目当てのカヴァールナへダイヤルすると、もれなくそのカフェにまつわるお話(チェコ語のみ)が聞けるというしくみ。



館内は古き良き時代をしのばせる夢あるディティールに溢れています。




今でもプラハのカフェでは、チェスとかトランプとかしながら、のんびり過ごすプラジャンをよく見かけます。

どうやって振るのかサッパリわからない2次元サイコロ。


ホスポダでオセロやったことはあるんですが…流行るかしら?

例の本にも載っているカフェにまつわる絵やイラストがたくさん展示されていますが、なかでもこれは必見。

チェコ人の画家、ヴィクトル・オリヴァの「アブサンを飲む男」。この絵、現在もあのカフェ・スラヴィア(Kavárna Slavia)にあって、スラヴィアのシンボルになっています。
アブサン(absinth)といえば、多くの国で禁止されてる緑色のキケンな奴。プラハではそのへんで普通に売ってます。博物館内に展示会の期間限定で作られたカフェでもオーダー可能(29kč、約180円)


この新聞も当時風に作られた展示会限定オリジナル。40kčで買えます。

店内のあちこちに置かれているレコードプレーヤや蓄音機も見もの。


ドロっとした重たいヨーグルトのような口当たりの温かいチョコレートドリンク、チョコカーヴァ(čokokáva)39kčと、生クリーム付きラクヴィチカ(縁起でもない“お棺ちゃん”の意)を注文。

ウトペネッツ(utopenec“溺れたヒト”という意味のソーセージ…)とか、ブラックユーモアもたいがいにしろっていうネーミング多し。その名に似合わずこのラクヴィチカ(rakvička se šleháčkou, 15kč)、甘くて軽〜いお菓子。

こんなかわいらしいお客様もお出ましに。チャペックが『ダーシェンカ』で嘆いてたように子犬を写真に収めるのってナンテ難しいんでしょう(ボケ写真のイイワケ)。


「アンタ、これ、どこかわかる? コレは絶対撮るべきよ」とたどたどしい英語で、でも目をキラキラさせて命令してきたチェコ人のおばあさん。この写真の時代に通っていたのかな。市民会館こと、Obecní dům内のカフェ。

そして伝説のユニオンカ(Unionka)。1949年に営業を停止したこの伝説のカフェを有名にしたのは、その美味しいコーヒーでもなく美しい建築でもなく、ひとえにそこへ通った人たちのためでした。コミュニズムの時代の幕開けとともに、雰囲気は全く違ったものになってしまったのだとか。18世紀初めにプラハにやってきたカフェは、およそ200年後、民族復興運動とともに最盛期を迎え、象徴的なユニオンカの閉店とともにその黄金時代の終わりを見るのです。

年配の方が食い入るようにじっと写真を眺めているのを見ると、きっとリアルタイムだったのだろうな、と想像したりします。

このユニオンカやパヴェル・ヤナーク(Pavel Janák)のCafé Hotel Julisなど、残念ながら現存していない憧れのカフェはあれど、ビロード革命後のスラヴィア復活を始め、私がプラハに来てから改築を終え再オープンしたのをざっと数えるだけでも、カフカプラハのドイツ語(あるいはイディッシュ語)作家たちが集ったKavárna Arco、 モザイクで埋め尽くされた店内が圧巻のCafé Imperial、ランプからハンガーまでキュビズム三昧な、キュビズム博物館内のGrand Café Orientなどなど、第2のカフェ黄金時代となりそうな予感。プラハのお気に入りカフェの一部をざっとご紹介。


出版社もやってるカフェ・リプカ。


時々コーヒー豆買ってるエベル・カフェ。



何度訪れてもため息の出る美しい階段を持つキュビズム・カフェのグランド・カフェ・オリエント。

言わずと知れたカフェ・スラヴィア。


旧市街はヨゼフォフ地区にあるカフカ・カフェ。


18世紀初頭、プラハで最初に定期的にカフェが売られた場所、“黄金の蛇(U zlatého hada)”の家。ダマスカスからやってきたアルメニア人がウィーンを経由してプラハへコーヒーを伝え、現在のカレル橋のたもと、“三匹の駝鳥(U tří pštrosů)”レストランがあるところに1714年、最初のカフェを開きました。まもなくこの“黄金の蛇”の家にもカフェができ、時を経て21世紀の今もレストランになっています。


見事なモザイクの内装と名物ドーナツが有名なカフェ・インペリアル。




ハシェクがコーヒー代の代わりに面白い話をして勘弁してもらったといわれるカフェ・モンマルトルは私の大好きなカフェのひとつ。


ゴハンもケーキも美味しい♪カフェ・サヴォイ。


ハヴェル元大統領のお祖父さんが設計に関わったルツェルナ・パラーツ内にある映画館の下のカフェ・ルツェルナ。

この展示会、今年の8月末までやってます。プラハ在住の方にはもちろん、しばし滞在される方にも強力におすすめ。博物館を出た後は、実際にプラハでお気に入りカフェを見つけてみてください。

プラハ市博物館(Muzeum hlavního města Prahy)☆
“Pražské kavárny a jejich svět”(プラハのカフェとその世界)
地下鉄B線・Florenc(フロレンツ)下車、徒歩1分。
URL:http://www.muzeumprahy.cz
開館時間:火〜日9:00〜18:00(月曜休)期間:2008年3月12日〜8月31日
入館料:大人100kč(約600円)/学生40kč(約240円)/撮影料50kč