イジー・メンツェル監督『英国王 給仕人に乾杯!』ついに日本上陸!Vol.2

『英国王…』で頻出のアールヌーヴォー


先週末はポーランドのクラコフ&アウシュヴィッツへ行ってました。
プラハへ戻ってくると、なんだかホッとします。3年ぶりに帰国した日本から戻ったときもやはり。日本は生まれ育った国だし、外国に暮らせば恋しさも手伝って日に日に自分のなかで魅力をましていく日本。

それでもあまりにプラハが美しい街なので、故郷にいない寂しさもなぐさめられるのかな、きっと。

旧市街広場の有名な天文時計のある塔から眺めたプラハ城。

そして旧市街広場のカフカ(Franz KAFKA)生家跡の隣にそびえるバロックの傑作、聖ミクラーシュ教会(Kostel Svatého Mikulaše)とカルティエの間からヴルタヴァ川を目指すパリ通りこと、パジージュスカー(Pařížská)の夜景。

このパリ通りは、19世紀半ばまでここら辺いったいにあったユダヤゲットーを整備してできたもの。パリのシャンゼリゼ大通りを模した通りと言われています。本家に比べるとホントにかわいらしい距離なのだけれど、カルティエにヴィトン、エルメスバーバリーといったブランドショップが並ぶプラハいちゴージャスな通りになっています。
チェコのセレブも多く住んでいるこの通り、記憶に新しいところでは「のだめ…」のヴィエラ先生こと、元チェコフィル主席指揮者のズデニェク・マーツァル(Zdeněk MÁCAL)さんもパリ通りの住人だと、こないだ教えてもらいました。

さてプラハのパリといえば、黄葉美しいペトシーン(Petřín)の丘の上にももうひとつ。

ヤン・スヴィェラーク(Jan SVĚRÁK)監督の『コーリャ・愛のプラハ』でも出てきたプラハの展望台(Rozehledna=ロゼフレドナ)。
高さ60m、晴れてるときの見晴らしは最高だけど、エレベーターがないので約300段の階段を延々登ることに。。。映画の中では監督のお父さん、主人公ロウカを演じたズデニェク・スヴィエラーク(Zdeněk SVĚRÁK)さんが愛くるしいコーリャ少年と見事に登りきっていました。
これ、パリのエッフェル塔の5分の1モデルなんです。

ね、近くで見るとよくわかるでしょ? 写真はちょっとカレル・ゼマン(Karel ZEMAN)風(笑)にしてみました。

え、早く映画の話しろって? はいはい。前置きがいつも長いけど、全く関係ないってワケじゃないんです。このフランスつながりの話。
だって映画の中に出てくる、主人公ヤンが働く“ホテル・パリ”(Hotel Paříž)も実際はここ、Francouzská Restaurace(フランツオウズスカー・レスタウラツェ)、その名もフランスレストラン(まんま過ぎるやん)で撮られているんですから。

プラハのアールヌーヴォー建築で名高い市民会館(Obecní dům=オベツニー・ドゥーム)内にあるフレンチ・レストラン。

『英国王…』のなかで、主人公ヤン(Jan DÍTĚ)が尊敬する先輩のスクシヴァーネク(Skřivánek)給仕長の定位置もちゃんとある! そして美しい少女、ユーリンカが秘密めいた微笑を浮かべて登っていくあの階段も。

レストランの入口ではもちろんこの人、小さくても誇らしげなヤンが正装でお出迎え!


夜も頑張ってます。


パリでブレイクしたアルフォンス・ムハ(Alfons MUCHA、フランス語読みはミュシャ)の素晴らしい絵がある市民会館、ライトアップされる夜はいっそう幻想的。
入口を入って正面はスメタナ・ホール(Smetanová síň)、左はカフェ、そして右がこのロケがあったレストランです。

メンツェル(Jiří MENZEL)監督のインタヴューにチェスケー・ブディェヨヴィツェ(České Budějovice)まで行った翌日、インタヴュアーの友紀さんと一緒に来店!混んでて入れないということはないと踏んで予約もせず、かつうっかり普段着で行ってしまい、末席へ案内されそうになるも断固抗議。友紀さんを印籠のごとく見せつつ、ちょっとあなた、このかたを誰と思って? 日本からメンツェル監督のインタヴューのために来た有名な映画ジャーナリストなんですよ。表に飾ってある映画、12月に日本で公開されるんです。この人のために、もっとちゃんとした席へ案内して頂戴(な、何様〜)。と、一番いい窓側席をゲット。でもコンサートの前後に訪れる観光客も多いので、夜訪れるなら予約したほうがよいかもしれません。
料理はどれも繊細で美しく、味も上品で丁寧さを感じました。アルファベットの文字に至るまでアール・ヌーヴォーしてる素晴らしいインテリアの中で、映画で感じた感覚を四次元で追体験

かぼちゃのスープはしつこくなく自然な甘みが香り、細部までお洒落。

まぐろのステーキはボリュームも満足、とろけるようなポテトグラタンと彩り豊かな温野菜との相性がバッチリ。

香ばしいチーズが間仕切りになった、グリーンアスパラガスのリゾット。カリカリのプチトマトの皮がラムネのセロファンみたいに可愛くて気に入りました。

濃厚なソースでワインもすすむ柔らか〜いラム肉の一品。

いろんな味が一枚のプレートに詰まったフランス・チーズの盛り合わせ。

表面パリパリ、中はしっとりシアワセなクレーム・ブリュレ。

あ〜美味しかった〜シ・ア・ワ・セ♪ 今度は夜、シャンデリアの灯りのもとで味わってみたいな〜。

あ、映画の話でした、いかんいかん。

そう、この映画の中に出てくる最も美しいシーンのいくつかが、このレストランで撮影されています。うっとりとするような場面が。そして時代を反映する政治の匂いのするシーンも。原作者フラバル(Bohumil HRABAL)が、自身もどっぷりその世界に浸かりながら、同時に鋭い観察者となって、愛情深く見つめていたプラハのレストランやホスポダにまつわる人間模様も。タイトルの“英国王 給仕人”のエピソードもここで語られるのです。

この映画のフランスつながりは、プラハにおけるパリつながりのあれこれを連想させるわけですが、その最たるものはメンツェル監督自身でしょう。ジャン・ルノワール(Jean RENOIR)監督が大好きと公言し、とあるクラブでルノワール監督の名作『ピクニック』(UNE PARTIE DE CAMPAGNE, 1936)を解説付きで紹介。『ピクニック』へのオマージュの意味もあるという監督の『Rozmarné leto』(Capricious Summer/気まぐれな夏、1967、68年カルロヴィ ヴァリ映画祭グランプリ作品)のサーカス役者の役で見事に演じた倒立もやってみせてくれるという出血大サービスを目撃したのは今春のこと。70歳だというのに、なんてお茶目なのかしら!!とその時はそう思ったのですが、実際に間近にお会いしたら、いよいよ確信。

ひなぎく』のヴェラ・ヒティロヴァー(Věra CHYTILOVÁ)監督や『火事だよ!カワイ子ちゃん』(→今関係ないんだけど、このタイトルの力の抜けかた加減、めっちゃ好き)のミロシュ・フォルマン(フォアマン)(Miloš FORMAN)監督らとともにチェコヌーヴェルヴァーグの中心人物でもあったメンツェル監督。これもフランス・ヌーヴェルヴァーグとの共時性を抜きにして語れず、またトリュフォー(François TRUFFAUT)の『大人は判ってくれない』やゴダール(Jean-Luc GODARD)作品を多く配給してきたフランス映画社さんが『スイートスイート・ビレッジ』(Vesničko má středisková/My Sweet Little Village, 1985)に引き続いてメンツェル作品の『英国王 給仕人に乾杯!』を配給するのも、至極納得な流れだと感じるのです。

それじゃまた長いので続きはVol.3にて。またまた美味しいものが登場しますのでお楽しみに。