コンタクトレンズの諸問題

興味深い天才、ウィフテルレ氏


チェコに来てなにが一番心配だったかといえば、これがないとどうにもならないド近眼の私の必需品、コンタクトレンズ。日本では保険証がないと買えないものだし、言葉もままならないのにちゃんと度が合ったレンズをこっちで買えるのか、そもそも使い慣れたメーカーのものがあるのか、など不安だった。
今でこそ毎日の煮沸処理(ばい菌をなくすためにコンタクトレンズを専用ケースに入れて、電源に差し込み、熱処理すること)が不必要な洗浄液なども出ているが、けっこうな値段なので私は旧式に洗浄→煮沸と分けて毎日やっている。
フランスに留学していたとき、初日に220ボルトのコンセントに変圧器を接続するのを忘れて軽く爆発させてしまい、寮のおじさんにしこたま怒られた苦い経験も今は昔、最近の煮沸器はノートパソコンと同じく、100〜240V対応でこれはありがたい。
旦那は目はいいので、この近眼の悩みはなかなかわかってもらえない。それでもいろいろ調べてくれて、保険がなくても医師の診断を受ければ(そんなに金額は変わらないそう…)購入は可能らしい。
レンズそのものは、まだ日本から買いだめたものが残っているので問題ないのだが、コンタクトレンズには保存液がいる。街場のレンズ屋さんを数ヶ所見て回ったが洗浄、保存(煮沸なし)が一度にできる高いものしか置いていない。もっとスタンダードな保存液だけの機能の液体を求めて薬局に行った。
日本から精製水(薬などを作るための特別な処理をした水のこと)に溶かして保存液を作るための専用の顆粒を持ってきていたので、薬局で精製水だけ買おうと思い、「きれいな水ください」(→精製ってチェコ語でどういうのか?だったし、旦那もわからないと困っていたので)ととりあえず言ってみると、お店の人はかなりの困惑顔。「置いてない、食料品屋に行ってください」と言うので、「飲むためじゃない、コンタクトレンズ用です」と食い下がると、ああ、とばかりに奥から出してきたのがこれ。

家に帰ってから辞書でラベルを解読するも、どうやらこれは点滴用らしい。旦那はこんな専門的なのを簡単に薬局で誰でも買えるのが不思議、と言っていた。不安になり、もう1軒別の薬局でもトライ。するとやはり同じものを渡されたので、これを保存液として使ってるらしい。そこで日本から持ってきた保存液の成分表を見ると、0.9%の食塩水、というようなことが書かれていて、これも同じだったので、そうか、保存液は点滴と同じだったのね、と初めて気が付いた。
しかし点滴使用なので針をさすゴムのようなものが口についていて、どうやって開けたらいいのかわからない。仕方がないので買ったブツを薬局へ持ち込み、「コンタクトレンズの保存液として使いたいけど、どうやって開けるんですか?」と質問。またまた困惑顔の店員さんが悩んだ末、出してきたのが注射器!「これで1回分ずつとって使ってください」ですと〜っ。…で、試してみたけどとてもムリ。ゴムの部分が分厚いので針が通らないし、無理やり通しても一日使うのに何回もこの作業を繰り返さなければならない。
業を煮やしてハサミでプラスティックの容器を切って日本の保存液ボトルに移しかえて使っている(泣)。ばい菌がこの時点で入ってしまっていそうだけど、もっといい方法が見つかるまでは仕方ない。使用済み注射器を雑多なゴミ袋(こちらではまだ分別は限定的)に入れるのも気が引けるし…。
レンズそのものは日本で売っているのと同じものも買えるし、豊富に種類はあるが、日本より割高。だからチェコ人の平均給料(プラハ地区では約2万コルナ=約10万円)からしたらかなり高い代物。チェコ人の知り合いと居酒屋で飲んでいたとき、コンタクトレンズの話になり、右目と左目の度がだいぶ違うので眼鏡は不便なんだけど、日本で安く買えないか?と相談されたりして(笑)。こっちが相談したいのに。
コンタクトレンズチェコ人の発明なのに、チェコ人も苦労しているよう。冒頭右上の写真、オットー・ウィフテルレ(Otto WICHTERLE,1913〜1998)さんがその発明者。1961年に発明している。1913年、モラヴィアのプロスティェヨフ(Prost'ejov)で生まれた彼は、科学者としてエリートコースを歩むが、共産主義には頭を下げなかったので、大学も追われる“要注意人物”だった。それでも負けずに研究を重ね、共産党政権が倒れるとチェコスロヴァキア科学アカデミーのトップに任命された。http://www.radio.cz/en/article/47455
彼を知る人物の評は興味深い。科学者としての研究も素晴らしいが、その人となりはもっと素晴らしいと絶賛している。謙虚でユーモアがあって、そして信念がある素敵な人だったらしい。彼の発明で牛乳瓶の底眼鏡を免れる恩恵をあずかる身としてはもっと知りたくなってきた。チェコ語がもっとできるようになったら彼についての本を探してみよう。